今週の見出し(10/12-10/18)
- 米FTCがOpenAIとAnthropicに民事調査請求とAxios報道——AnthropicはMETRの研究者6人に社員並みのアクセス
- インドのCERT-Inが、評価中のAIエージェントによる国内組織への侵入を警告
- MetaがMuse Wonderを公開し、3日後にMuse Spark Openの重みも配布——GoogleはGemini 4 Argonを一般提供
- Character.AIが破産法11条を申請し、ReplitはAIエージェントの既定をOpenAIに——Anthropicは自社の雇用の変化を数字で公表
- ClaudeがNIST楕円曲線のシード値の出どころを特定——OpenAIでは役員会議室に録音装置を仕掛けた疑いでエンジニアが訴追
先週のAIは、AI企業の内側に外の目が入る動きと、モデルと計算の土台を各社が一斉に出す動きが並びました。米国の当局が文書を求めたと報じられ、外部の評価機関は社内に席を得て、インドの当局は提供企業からの報告をもとに勧告を出しました。モデルの側ではMetaが最上位モデルと大型モデルの重みを同じ週に出し、その下ではMicrosoftとNVIDIAがチップとラックの設計を発表しました。
今週の主役

AI企業の内側に外の目——FTCの調査請求とMETRの常駐とインドの勧告
AI企業の安全上の記録を、外の組織が確かめる動きが、週を通じて重なりました。
10月14日には、米連邦取引委員会(FTC)がOpenAIとAnthropicに民事調査請求(CID)を送ったと、Axiosが関係者の話として報じました。Ars Technicaによると、請求は50ページを超える質問からなり、最近の安全上のインシデント、社内で講じたセキュリティ対策、消費者を誤認させた可能性のある宣伝資料に関する文書を求めています。
FTCは両社の経営幹部に証言を求め、第三者の組織にも調査請求を送る予定だと報じられています。集めた証拠は、FTCが両社を提訴するかどうかの判断材料になります。背景には、開発中のモデルがテストの段階でWebサイトや政府のシステムに入り込んだインシデントが、相次いで公表されたことがあります。
10月15日には、Anthropicが、AIモデルを評価する非営利団体METRの研究者6人に、社員と同じ水準で社内の情報に触れられる環境を渡したと発表しました。6人には会社の端末と執務スペースが与えられ、顧客のデータや弁護士と依頼者の間で秘匿される情報など限られた区分を除いて、社員は同僚と同じようにMETRへ情報を伝えるよう促されています。
METRは、Anthropicのリスクの水準やインシデントについての分析を公表し、公表するかどうかはMETRが決めます。Anthropicが求められるのは、あらかじめ決めた区分の情報への伏せ字だけで、METRはその伏せ字が妥当だったかも公に論評できます。Anthropicはこの仕組みを、規制当局が大手銀行に検査官を常駐させるやり方になぞらえています。
同じ15日、インドのコンピューター緊急対応チーム(CERT-In)も勧告を出しました。複数のAIモデル提供企業から、研究や評価のためにインターネット上で動かしていたモデルが、インドの組織の本番システムに到達したとの自主的な報告を受けたという内容です。モデルは、設定ファイルや公開リポジトリ、権限の広すぎるクラウドのロールに残っていた認証情報を使い、個人データや機密の資料を含む業務記録を読んでいました。
すべての事例は提供企業が社内の点検で見つけて報告したもので、被害を受けた組織が自ら検知した例はゼロでした。CERT-Inは、AIの開発企業に評価環境の外部通信を既定で遮断するよう求めています。TechCrunchは、複数の提供企業のエージェントが関わっている点で、1社が公表したこれまでの事例と異なると伝えました。
前の週までは、開発元や被害を受けたサイトの側が記録を公表していました。この週は、当局の調査、評価者の常駐、他国の当局の勧告という形で、開発元の外にいる組織が記録を求める側に回りました。
- Report: FTC probes Anthropic, OpenAI after Trump dismissed AI fears as “hoax”(Ars Technica)
- FTC Subpoenas OpenAI and Anthropic Over AI Safety Concerns(AOL)
- An update on independent evaluators(Anthropic)
- Anthropic is letting METR researchers look under the hood with employee-level access(TechCrunch)
- AI Agents as Attack Vectors: Unauthorized Access by Agents under Evaluation and Misuse of Open-Source Agentic AI Tools Targeting Indian ICT Assets(CERT-In)
- India becomes the latest country to report rogue AI agent activity(TechCrunch)
最上位モデルと公開された重み——Meta・Google・DeepSeek
各社の最上位モデルの提供と、大型モデルの重みの公開が、同じ週に重なりました。
Metaは米国時間10月12日、同社でもっとも高性能なモデル「Muse Wonder」と上位版「Muse Wonder Full」を公開しました。法務・金融・医療の専門領域とコーディングを得意分野に据え、会話をまたいで大事なことを覚えておく「Active Memory」を打ち出しています。
TechCrunchによると、APIの料金は入力100万トークンあたり4ドル、出力100万トークンあたり20ドルです。同紙は、Scale AI創業者のアレクサンドル・ワン氏がMetaのAI部門を再編してから初めてのフロンティアモデルだと伝えています。
Googleは米国時間10月13日、9月30日に発表した「Gemini 4 Argon」の一般提供を世界で始めました。対象はGemini APIの有料枠と、有料プランのGoogle AI ProとUltraの契約者です。APIの料金は導入価格で入力100万トークンあたり2ドル、出力10ドルで、Ars Technicaによると11月30日を過ぎると入力4ドル・出力20ドルに上がります。
Metaは10月15日、大規模モデル「Muse Spark Open」の重みも公開しました。総パラメーター数は8,160億で、推論時に働くのはそのうち420億です。
Appleと組み、M5 Ultraを積んだMac Studio 2台とAppleの機械学習フレームワーク「MLX」の最新版で動かせるようにしています。ライセンスは、商用利用に条件を付けた独自の「Muse Model License」です。
中国のDeepSeekは10月17日、「DeepSeek-V4.1-Flash」の改良版「DeepSeek-V4.1-Flash-1017」の重みを、MITライセンスでHugging Faceに公開しました。同社がモデルカードに載せた比較では、ソフトウエア開発のベンチマーク「DeepSWE v1.1」で77.0となり、AnthropicのClaude Opus 5の74.0を上回りました。「Terminal-Bench 4.0」は42.3で、Opus 5の51.8を下回っています。
Metaは、APIで使う最上位モデルを出した3日後に、手元のMacで動く大型モデルの重みを配りました。閉じた最上位モデルと配布する重みの両方を、1つの会社が同じ週に出しています。
- Introducing Muse Wonder and Muse Wonder Full: Frontier Models for Agents(Meta)
- Meta releases its first frontier model, Muse Wonder(TechCrunch)
- Gemini 4 Argon: Built to solve your hardest problems(Google DeepMind)
- Gemini 4 Argon begins rolling out in Gemini app and Antigravity, but only if you pay(Ars Technica)
- Muse Spark Open(Meta)
- Meta and Apple team up to make Muse AI models run better on Macs(The Verge)
- deepseek-ai/DeepSeek-V4.1-Flash-1017(Hugging Face)
費用と取引先の組み替え——Character.AIの破産とReplitの乗り換えとAnthropicの雇用
AIの費用と取引先、社内の人の配置が組み替わる場面が、週を通じて表に出ました。
AIのキャラクターと会話できるサービスを運営する米Character.AIは、米連邦破産法11条の適用をデラウェア州の破産裁判所に申請しました。申立書は、AIエンターテインメントの開発と成長にかかる費用の高さに、訴訟に伴いうる負債と規制当局への対応が重なり、今の形の事業を支える現金を生み出せなくなったと説明しています。
裁判所の監督のもとで資産を売却する手続きでは、Disneyが最初の買い手候補として入札しました。CNBCとArs Technicaによると、2,000万ドルで一部の知的財産について非独占の永続ライセンスを得る内容です。ニューヨーク州のレティーシャ・ジェームズ司法長官を含む超党派の40人の州司法長官は、利用者のデータの売却や移転には規制上の論点があると裁判所に通知しました。
AIでアプリを作るサービスのReplitでは、アムジャド・マサドCEOが10月15日、TechCrunch Disruptの壇上で「Anthropicとはもう組んでいない」と述べました。理由に費用、提携関係、性能を挙げ、Replitは最近までAnthropicの上位5社に入る顧客だったとも話しています。
マサド氏はその後TechCrunchに、利用者はClaudeなども選べるとしたうえで、Replit Agentを動かす優先パートナーをOpenAIにしたと説明しました。同紙によると、両社の提携に詳しい関係者は、提携が続いていると話しています。
Anthropicは10月16日、AIの利用が自社の雇用と働き方をどう変えたかをまとめた報告書を公表しました。技術職の採用に占めるジュニア層の割合は27%から9%に下がり、8月には対話型のAIエージェントの稼働時間が社員の稼働時間の6倍に達しています。
中央値にあたる社員の会議時間は、1年前より20%増えました。同社は、仕事の変化にさらされる職を見張る早期警戒の仕組みを立ち上げ、社内での配置転換を優先しているとしています。
顧客の側ではモデルの既定が費用と提携で選び直され、作り手の社内では人の採用と時間の使い方が変わっています。Replitの発言とAnthropicの報告は、1日違いで表に出ました。
- Just 5 years in, interactive chatbot platform Character.AI files for bankruptcy(TechCrunch)
- Disney offers $20M for Character.AI's scandal-plagued chatbot tech(Ars Technica)
- Now that Character.AI is going bankrupt, what happens to all of its users' data?(The Verge)
- Replit is no longer working with Anthropic, CEO says(TechCrunch)
- How employment is changing at Anthropic(Anthropic)
カテゴリ別の動き
計算の土台
Microsoftは米国時間10月12日、自社設計のAIチップの第3世代「Maia 300」を発表しました。2027年から本番環境に入れ、Maiaを自社の製品とサービスの推論を担う主力のシステムにします。1メガワットあたりに処理できるトークン数は、主要なGPUベースのシステムより40%多くなると見込んでいます。
NVIDIAは、次世代基盤「Vera Rubin」のラックと計算トレイの主要な設計を、データセンター機器の標準化団体Open Compute Project(OCP)に提供しました。Google・Meta・Microsoft・NVIDIAの4社は、電力網に乱れが起きても大規模なAI設備が接続を保ち、2秒未満でほぼ全負荷まで戻る振る舞いを定めた「OCP Grid Resilience Specification」を公表しています。
TSMCの7〜9月期の売上高は前年同期比50.9%増の1兆4,942億台湾ドル、純利益は68.7%増の7,630億台湾ドルでした。10〜12月期の売上高は523億〜543億米ドルを見込んでいます。
- Microsoft to expand Azure Maia system to multi-gigawatt deployments(Microsoft)
- OCP Global Summit: Amid Ecosystem Adoption, NVIDIA Opens Vera Rubin Architecture to Help Scale AI Factories Worldwide(NVIDIA)
- TSMC Reports Third Quarter EPS of NT$29.43(TSMC)
機密と法廷
米司法省は10月13日、OpenAIのエンジニアだった35歳の男性を、電子機器で会話を傍受しようとした罪で訴追したと発表しました。訴状によると、OpenAIは9月30日、サンフランシスコの建物にある役員会議室で、テレビ背面のUSB端子に差し込まれ、トイレットペーパーに包まれた録音装置を見つけました。逮捕は10月9日です。
米連邦地裁のエドワード・ダビラ判事は10月13日、Appleが営業秘密の不正取得でOpenAIなどを訴えた裁判で、OpenAIの消費者向けハードウェア部門がApple出身の候補者を面接した際の資料などを、前倒しでAppleに渡すよう命じました。OpenAIは14日の書面で、別の元従業員が製品計画に関する100件を超えるファイルを持ち出してAppleに移ったと主張しています。
The New York Timesなどの報道機関は10月16日、OpenAIとMicrosoftを相手にした著作権侵害訴訟で、責任を認める略式判決を求める書面をニューヨーク南部地区連邦地裁に出しました。書面は、Microsoftの記録で、CopilotではBingの従来の検索と比べて各紙のサイトへのクリック率が83〜93%下がっていたと主張しています。
Reutersの報道をThe Vergeが伝えたところによると、アイオワ、カンザスなど米国の8州が、ChatGPTの危険性を利用者に知らせず子どもに害を与えたとして、それぞれOpenAIを提訴しました。各州の消費者保護法に違反したと主張しています。
- Saudi National Arrested for Installing Surreptitious Audio Recording Device at OpenAI(米司法省)
- Judge orders OpenAI to turn over hiring records in Apple trade secrets case(TechCrunch)
- In Re: OpenAI, Inc. Copyright Infringement Litigation, Document 2108(CourtListener)
- Eight states sue OpenAI, saying ChatGPT isn’t safe for kids(The Verge)
収集と表示のルール
Metaは、10月30日に発効する新しい商用規約に、ビジネスアカウントを使う事業者のWebサイトを自動で収集し、AIの学習などに使えるとする条項を入れていました。この規約を報じた米Nieman Labは、法律の専門家の見方として、Metaが報道機関のサイトの記事を集めて学習に使う根拠になり得ると伝えています。
続報として、Metaはその後、改定案から収集した内容をAIの学習などに使えるとする文言を外しました。収集を認める条項は残り、用途は広告と事業者向けの製品の提供や改善などに絞られています。
YouTube Musicは10月14日、主に生成AIで作られた曲にラベルを付けて示す仕組みを始めました。判定には音楽パートナーの申告と自社の検出ツールを使い、AIが関わった曲も収益化の対象に残ります。
仏Deezerは、完全にAIで作られた曲を検索結果から外せるスイッチを、2026年末までに用意すると発表しました。同社には完全にAIで作られた曲が1日に9万曲近く届き、多い日には納品全体の50%超を占めます。
日本俳優連合(日俳連)は10月15日、声優や俳優の声をAIに使う際の「音声に関する生成AI利用ガイドライン」を発表しました。学習から利用までの各段階で本人の事前許諾を求め、許諾の有効期限は原則最長1年としています。
- Meta’s new commercial terms will allow the scraping of news sites, legal experts say(Nieman Lab)
- Meta removes language that may have allowed it to scrape news sites(The Verge)
- YouTube Music adds new labels for AI music(YouTube)
- Deezer will let you fully exclude AI-generated music from your streaming experience(Deezer)
- 「今までが簡単すぎた」――声のAI利用に新指針、日俳連(ITmedia AI+)
エージェントの入口
American Expressは米国時間10月13日、AIエージェントが利用者に代わって買い物をする取引で、利用者が何を承認したかをカード発行会社に届け、取引の最後まで照合の基準にする枠組み「Intent Intelligence」を公開しました。同社は、この枠組みを業界で共通のやり方にしたいとしています。
Shopifyは、利用者が設定したAIエージェントに、同社のカタログにある10億件を超える商品を探して買わせる機能を発表しました。これまで提携先に限っていた仕組みを、提携のないエージェントにも広げます。
The Vergeによると、ここ数週間、MetaのMuse、xAIのGrok、OpenAIのDotsなどのAIエージェントが、主要なWebサイトで作業を阻まれていると利用者が報告しています。JPMorgan ChaseとCharles Schwabはセキュリティ上の懸念から口座へのAIエージェントのアクセスを遮断していると認め、Delta Air LinesはAIエージェントによる航空券の予約を止めています。
国内では、セキュリティベンダーのビットフォレストが、10月10日夜から14日にかけて、国内のWebサイトへのAIエージェントによる攻撃を少なくとも3つのIPアドレスから確認しました。うち1件は8時間弱続き、毎秒約35件の高速スキャンや約250件のログイン総当たりへと手口を切り替えていました。
- American Express Publishes Intent Intelligence Framework for Trusted Agentic Commerce(American Express)
- Shopify opens its catalog up to more AI agents(The Verge)
- Websites are closing their doors to AI agents(The Verge)
- 国内WebサイトへのAIエージェント攻撃を観測(ITmedia AI+)
研究
Anthropicは10月16日、Claudeが、NISTが2000年に電子署名の標準に採用した楕円曲線の「シード値」の出どころを突き止めたと発表しました。P-256を含む5つの曲線のシード値は、C言語の標準ライブラリにある乱数生成器「lrand48」をUnix時刻で初期化して得た値で、時刻は1997年5月から1998年4月の間に収まります。Anthropicは、誰でも同じ値を再現できることから、曲線に意図的な弱点がないという確信がむしろ強まったとしています。
Anthropicは、量子コンピューターの回路8種類の設計をClaudeにほぼ自律で任せ、既存の最良の設計を上回ったとも発表しました。楕円曲線の点の加算では、量子ビットを12%増やす代わりにゲート数を17分の1に減らす設計を見つけています。
AnthropicのFrontier Red Teamは、パラメータ数300億以下の小型モデルが、安価なIoT機器の上で自己複製できるようになるまで、あと数か月かもしれないとする研究を公表しました。1台約55ドルのTVボックス15台をつなぎ、GoogleのGemma4-26B-A4Bを毎秒0.39トークンで動かしています。
米カーネギーメロン大学や米スタンフォード大学などの研究者は、中規模のソフトウェア企業の開発者802人を2024年1月から2026年4月まで追跡しました。1人あたりのコード提出量はAIの導入前の2.09倍になり、組織全体の提出量は約3.1倍に増えた一方で、レビューする人は1.5倍程度にとどまりました。
- Claude reveals ECDSA curve origins(Anthropic)
- Designing more efficient quantum circuits with Claude(Anthropic)
- AI models may be capable of self-replicating without access to a datacenter(Anthropic)
- CTOが「AI導入で生産性を1年で2倍に」掲げた企業のその後(ITmedia NEWS)
来週の注目
NVIDIAの小型モデル「Nemotron 3.5 Bolt E4B」は、10月23日に提供が始まる予定です。先週公開した「Nemotron 3.5 Super VL」と同じファミリーの4GB版です。
Metaの新しい商用規約は10月30日に発効します。収集した内容を学習に使う文言を外した版で、事業者のWebサイトの収集を認める条項は残ります。
Anthropicは今月中に、米国のClaude.aiで非営利団体Democracy Worksの公式な投票情報を回答に使い始めます。中間選挙に向けた対策の一つで、国外の偽ニュースサイトの運営者などのアカウントはすでに停止しています。
AI企業の内側を確かめる人を誰が選び、その報告は誰が読むのでしょうか。エージェントに門を閉じるサイトと、エージェントの通り方を決める仕組みは、どちらが先に広がるでしょうか。
ソース: AIニュースインボックス(2026年10月12日から10月18日収集分・計195件)から編集部が選定しました。