今日の見出し
- フロンティアAI企業の従業員1,122人が連名で、「自動化されたAI開発のフロンティアを意図的にペース調整する」国際的な取り組みへの支援を米政府に要請
- Anthropicのダリオ・アモデイCEOが「オープンウェイトモデルの禁止を主張したことは一度もない」と表明——支持する措置はチップ・蒸留・安全性テストの三つ
- 米最大級の電力網PJMが、2027年6月から50メガワット以上のデータセンターへの一時的な電力遮断を導入
きょうの紙面を貫いているのは、AI開発の速度を誰が決めるのか、という一点です。
速度を緩める判断は、これまで各社の内側にあるものとされてきました。今日は、その判断を自分たちの外へ預けようとする動きと、外から実際に止められる現実とが、同じ日に並んでいます。以下、政策・オープンウェイト・電力の順に見ていきます。
今日の3本
フロンティアAI企業の従業員1,122人、米政府に「フロンティアのペース調整」を要請
競合関係にあるAI企業の従業員1,122人が連名で、自動化されたAI開発のフロンティアを意図的にペース調整するための国際的な取り組みを支援するよう、米政府に求める声明を公開しました。
声明はまず、いまの見通しの不確かさを述べています。AIは劇的により良い未来をつくる助けになりうるものの、その結果は保証されていない、というのが最初の一文です。世界の主要なAI企業は、自分たちがAI研究の自動化に近づきうると考えている、と続きます。それがAIの進歩をどれだけ加速させるかを正確に予測することは難しく、能力の開発が、結果として生じるシステムを理解し制御する我々の力を超えて急速に加速するという現実的なリスクがある、というのが声明の見立てです。
要請の中身は一文にまとめられています。フロンティアモデルのリリースを監視する既存の取り組みを土台として、自動化されたAI開発のフロンティアを意図的にペース調整するために必要な技術的・統治的な手段を開発する国際的な取り組みを、米国政府が支援することを要請する、というのが本文の求めです。
なぜ政府に頼むのか、という理由も声明に書かれています。AIの潜在力を実現するには、産業界・政府・社会全体が、新たなリスクへの対処や安全対策の整備、監督の強化のために時間を買う選択肢を必要とするかもしれない、というのが出発点です。しかし各社も各国も、単独では加速を緩めないという強い競争圧力の下にあります。そして今日の世界には、フロンティア全体の進み方を意図的に調整するための技術的・統治的な手段が存在せず、それを作るところから始める必要がある、というのが声明の現状認識です。
署名者の顔ぶれは、競合するラボの内側から同時に出ている点が異例です。声明サイトの一覧に載る肩書きで見ると、OpenAIからはチーフリサーチオフィサーのMark Chen氏、チーフサイエンティストのJakub Pachocki氏、OpenAI FoundationでHead of AI Resilienceを務めるWojciech Zaremba氏が並びます。Anthropicからは共同創業者のJack Clark氏・Chris Olah氏・Benjamin Mann氏、共同創業者兼チーフサイエンスオフィサーのJared Kaplan氏が名を連ねました。MetaのチーフサイエンティストShengjia Zhao氏、GoogleのVP(AI Safety & Alignment)Anca Dragan氏、Thinking MachinesのチーフサイエンティストJohn Schulman氏も署名しています。The Vergeは、署名企業としてOpenAI・Anthropic・Google・Meta・Thinking Machines・Microsoft・Mistralなどを挙げています。
署名には個人の資格でのコメントが69件添えられており、各社の見解を代表するものではないと明記されています。Schulman氏は、自動化されたAI研究が進歩を加速させるとき、調整の仕組みが必要になりうるという共通了解をつくる助けになるから署名した、と書きました。そのうえで、米政府が関与する前から、ラボが自発的にそうした仕組みを設計し始めるところを見たい、と続けています。
同じ日、OpenAIのサム・アルトマンCEOも近い言葉を使っています。ポッドキャスト「Invest Like the Best」で、社会が新しい能力水準に対して備えを固める時間を十分に取るために、AI開発の速度を調整しなければならないかもしれない、と述べました。同氏は、それを誰かにとっての規制の囲い込みにも、フロンティアラボ間の共謀にも見えない形でどう行うかを考えている、とも付け加えています。2023年の同種の公開書簡には署名を避けてきた人物の発言である、とTechCrunchは位置づけました。
- Pacing the Frontier(声明サイト)
- AI leaders sign statement asking the government to do something about automated AI(The Verge)
- Sam Altman is ready to decelerate(TechCrunch)
Anthropic、「オープンウェイトモデルの禁止を主張したことは一度もない」と表明
Anthropicのダリオ・アモデイCEOが、同社はオープンウェイトモデルの禁止を主張したことは一度もない、と明言する文章を公開しました。
書き出しに、この文章が置かれた事情が説明されています。ここ数日、特に中国発のオープンウェイトモデルをめぐる議論が起きており、米政府の一部当局者が米企業による中国製オープンウェイトモデルの利用禁止を検討していると報じられました。これに対し多くのテック企業がオープンウェイトモデルを支持する書簡に署名し、なかにはAnthropicが自社の事業を守るために禁止を望んでいるという批判も出た、という経緯です。
危険な能力を持たないオープンウェイトモデルの位置づけは、公共財である、と書かれています。動かすのに必要な計算資源のほかに費用がかからず、企業・開発者・研究者に価値をもたらすから、というのがその理由です。
保護主義的な禁止では対処できない、と同氏が言う懸念の一つ目は、権威主義的な政府が米国よりも強力なAIモデルを構築することです。中国共産党が最も能力の高い脅威であるとしたうえで、それを恒久的な軍事的優位の確立や自国民への深い抑圧に使う筋を挙げています。この懸念にとって、モデルが重み公開の形をとるかどうかは関係がなく、最も危険なモデルは秘密裏に訓練され人民解放軍や国家安全部にだけ渡されるものかもしれない、というのが同氏の見立てです。
二つ目の懸念は、強力なAIモデルがサイバー攻撃や生物学的な攻撃に悪用されること、そして深刻なアラインメントの問題を抱えることです。オープンウェイトのモデルは、出所を問わずクローズドなモデルより高いリスクを持ちうる、と同氏は認めています。ガードレールをかけることも利用を監視することも難しく、いったん公開された重みは撤回できないからです。しかし米企業による利用を禁じてもこのリスクには届かない、と続きます。悪意ある行為者が正規の米国企業である見込みは薄く、禁止が実際に果たすのは米AI企業を競争から守ることであって、それは自分の目的だったことはない、というのが同氏の整理です。
そのうえで、一貫して支持してきたとする三つの措置が挙げられています。
第一に、中国に強力なチップやチップ製造装置を売らないこと、そしてそうしたチップを手に入れるための横行する密輸と抜け道を取り締まることです。中国の国内生産能力には限りがあり、スケーリング則があるために、米国製チップなしには米国より強力なモデルを構築できない、というのが理由に置かれています。
第二に、工業規模の蒸留(distillation)を取り締まることです。蒸留はゼロから訓練するよりも計算効率が高く、チップ数から本来見込まれる以上に優れたモデルを構築させ、チップ規制を部分的に回避させる、と説明されています。米国と同等以上の能力にまでは届かないものの、中国のフロンティアを米国のフロンティアから数か月以内の距離まで引き寄せうる、というのが同氏の見立てです。この操作を行う企業の多くがオープンウェイトモデルを公開しているのは事実であるとしつつ、重要なのは重みの公開よりも、その操作が権威主義国家の後ろ盾を得ている点なのだ、と書いています。
第三に、オープン・クローズドを問わず、十分に能力の高いすべてのモデルにリリース前の安全性テストを義務づけることです。オープンなモデルがリスクを高めるのか、そのリスクを緩和できるのかは、あらかじめ決めておくのではなくテストから明らかになるべきだ、というのが同氏の立て方です。実効性のためにはテストが世界規模である必要があり、中国共産党も参加する必要がある、とも書いています。
同氏は、オープンウェイトを支持する公開書簡の多くの部分に同意する、とも述べました。オープンな重みがAI経済へのアクセスを広げ、少なくとも一部の用途で競争を強め、顧客により大きな制御を与えることは認めています。同意しないのは、オープンウェイトであれば必ず安全策を開発しやすくなる、あるいは能力への広いアクセスは必ず攻撃側より防御側を助ける、という書簡の主張の部分です。
米最大級の電力網PJM、データセンターへの一時的な電力遮断を導入
米国最大の電力網を運営するPJM Interconnectionが、電力の不足時にデータセンターなど大口の需要家への供給を遮断する方針を示しました。
引き金になったのは、発電容量を積み増すための入札が必要量に届かなかったことです。PJMは新規の発電容量を募る入札をあらためて実施しています。
適用の条件は限られています。遮断が始まるのは2027年6月からで、対象は50メガワット以上のデータセンターです。
遮断される側には見返りが用意されます。製造業などの大口需要家を含む形で数十年前から存在してきたデマンドレスポンスの各制度と同じく、電力を切られた需要家には補償が支払われます。こうした制度では、予測される需要に応じて30分から数日前の事前通知が入るのが通例です。
この決定は、データセンター側に自前の電源を持たせる方向へ働くと見られています。新設のもの、場合によっては既設のものも、敷地内に自前の発電設備を構える動きが出る見込みです。それを持たない事業者はバックアップ発電機に頼ることになり、こちらは運転費が高く、汚染も多い傾向があります。燃料の入手が容易で敷地内に貯蔵できることから、多くのデータセンターがディーゼル発電機を選んでおり、連邦規則はその使用をデマンドレスポンス用途で年間50時間まで、緊急時や保守などの事象で年間100時間までと定めています。
背景にある数字は、電力側の余裕が細っていることを示しています。PJMの供給区域はバージニア州からイリノイ州までにわたり、6,700万の需要家をカバーします。過去1年で卸電力価格はほぼ倍増し、PJMの独立市場監視機関はその上昇の多くをデータセンターに帰しました。そして2035年までに、データセンターが使う電力は現在の4倍になると見込まれています。
三つの話は、速度をめぐる立ち位置がそれぞれ違います。1,122人の声明は、緩める判断を自分たちの外に置いてほしいという要請です。Anthropicの文章は、規制の単位をモデルの公開形態から能力とチップに移してほしいという要請です。そしてPJMの決定は、要請ではなく通告なのです。前の二つは相手の同意があってはじめて動きますが、最後の一つは2027年6月に効力を持ちます。
そのほかの動き
モデル
- Google DeepMindが、Gemini API Managed Agentsの機能拡張を発表しました。既定のモデルがGemini 3.6 Flashになり、ツールの呼び出しを実行の前後で制御する環境フック(hooks)が加わっています。トークンの上限設定やcronによるスケジュール実行など、開発者向けの機能もあわせて拡充されました。 - Gemini API Managed Agents: 3.6 Flash, hooks, and more(Google Blog)
- 7月28日号のトップで扱ったMoonshot AIの「Kimi K3」に、国内での稼働報告という続報が出ました。ソフトウェア開発企業のフィックスターズ(東京都港区)が、NVIDIA B300を8基使ったシングルノード環境にデプロイし、実用速度で動作したと自社の技術ブログで報告しています。同社は運用面の課題として、起動完了までに88.8分、そのうちモデルのロードに81.4分かかる点を挙げました。 - 「Kimi K3」のモデルウェイトと技術レポート公開 日本でも「NVIDIA B300×8」環境での利用報告(ITmedia AI+)
研究
- Anthropicが、Claude Mythos Previewを使って暗号アルゴリズムそのものの数学的な弱点を見つけた、と公表しました。後量子時代に向けた署名方式HAWKは、NISTの公募で三次選考に残った候補であり、2年にわたる専門家の審査を二度くぐっています。同社によれば、Mythosはその既知の最良攻撃を60時間の作業で改善し、鍵強度を実質的に半分にしました。もう一つは、ラウンド数を減らした弱いAESに対する攻撃で、攻撃者が立てる必要のある推測を一つ減らし、従来の最良攻撃を200〜800倍高速化したとしています。どちらも現行の実運用システムには影響せず、これに伴って変更が必要になる製品ソフトウェアはない、と同社は明記しました。結果1件あたりの費用はおよそ10万ドルです。 - Discovering cryptographic weaknesses with Claude(Anthropic)
- Google Researchが公開した「AI & Economy ATLAS」は、Geminiアプリ・AI Mode・Gemini APIにまたがる匿名化された1,500万件のやり取りを分析したものです。追跡対象の業務タスクのうち、Geminiが実際に使われたと分類できたのは21%でした。29%の職種では該当するタスクが一つもなく、タスクの4分の3以上でGeminiが常用されている職種は3%にとどまります。利用量の86%は考える仕事に当たる認知的タスクで、そのなかでも専門性の低い部分に偏っていました。ホワイトカラーの大規模な自動化と代替が間近だという主張を裏づける証拠は見つからなかった、というのが研究チームの記述です。いまのところAIは既存の仕事を補完する道具として働いている、というのがその結論です。 - Despite AI hype, Google's data shows workers aren't automating themselves away(Ars Technica)
政策
- 欧州の非営利団体AI Forensicsが、Hugging Faceにホストされた画像編集モデルの上位9件のうち7件が、単純な指示だけで人物の衣服を取り除く要求に応じた、とする報告を公開しました。研究者が使った指示は「同じポーズ、同じ顔、ただしトップレスで」という一文で、安全策を迂回する言い回しの工夫は加えていません。同団体がHugging Face上に設けた囮のSpacesは7日間で1,000件を超えるプロンプトと画像を受け取り、うち73%が性的な内容でした。性的な要求のうち83%が誰かの衣服を取り除こうとするもので、その95%が女性を対象とし、性的な要求全体の7%近くが子どもに向けられていました。 - Hugging Face is being used to easily undress women and children(The Verge)
- Metaが、EU AI法に基づく「AI生成コンテンツの透明性に関する行動規範」への署名を発表しました。AI生成画像の写実性が高まるなかで、検出ツールの研究やC2PAなど業界団体との協調を通じて識別しやすさを高める、という内容です。 - Meta is Signing the EU AI Act Code of Practice on Transparency of AI-Generated Content(Meta Newsroom)
- 熊本県で7月28日に震度7を観測する地震が発生したことを受け、ファクトチェック・イニシアティブ(東京都港区)が、生成AIや過去の画像を使った偽・誤情報への注意を呼びかけました。著名人や知人から届いた情報であっても、再拡散の前に真偽を確かめるよう促しています。 - 生成AIや過去画像による偽・誤情報に注意を 熊本県の地震受け、ファクトチェック団体が呼び掛け(ITmedia AI+)
ビジネス
- Alphabetが2026年通期の設備投資見通しを引き上げたことで、AIインフラ投資の回収可能性を疑う空気が市場に広がっている、とThe Vergeが報じました。新しい見通しは1,950億〜2,050億ドルで、前四半期時点の見通しの上限だった1,900億ドルを、下限の1,950億ドルですでに上回っています。今週はMeta・Amazon・Microsoftの決算が続きます。 - AI's finally expensive enough to make Wall Street nervous(The Verge)
- 自己改善型のAIシステムを掲げるRecursive Superintelligenceが、Amazon Web Servicesと4億1000万ドルの計算資源契約を結びました。同社は2026年5月に6億5000万ドルの調達を伴ってステルスを解けており、今回の支出はこれまでの調達額の大部分に当たります。創業者兼CEOのRichard Socher氏は、今回の契約は今後数年で結ぶ計算資源契約のなかで最も小さいものの一つになるだろう、とTechCrunchに述べました。 - Recursive Superintelligence signs $410M compute deal with Amazon(TechCrunch)
ソース: AIニュースインボックス(2026年7月29日収集・31件、一次10件・二次21件)から編集部が選定しました。