10月7日の朝、OpenAIが722本の数学原稿を公開したというニュースには、「リーマン予想の関連難問」といった見出しが並びました。その722本の参考文献欄をすべて数えた第三者の集計によると、京都大学数理解析研究所(数理研)の望月新一教授の名前が出てくる原稿は、わずか2本です。

望月新一と聞いて、ABC予想をめぐる長い論争しか思い浮かばない方も多いはずです。この2本は、その望月氏の、もう一つの顔を照らしています。

2本が属する19番目の家系(No.019)は、20世紀最大の数学者の一人グロタンディークが1983年の手紙に書き残した「切断予想」の局所版を、証明したと主張しています。しかも論証の幾何の中核に据えた道具は、望月氏と弟子の辻村昇太氏が2023年に発表した定理でした。

ただし10月7日の時点で、この証明を遠アーベル幾何学の専門家が確かめたという公表はなく、主張は検証を待つ段階にあります。

グロタンディーク×望月×AI Executive Summary(情報図解)

722本のうち望月新一の名を引くのは2本だけ

OpenAIは日本時間10月7日の早朝、GitHubに「openai/math」というリポジトリを公開しました。READMEによれば、収められているのは「OpenAIの社内モデルが生成した数学の原稿」で、722本が372の家系に分けられています。

1件の結果あたり平均3時間、ChatGPT Proの思考計算を使い、評価期間中に約4,000問を出題したとも書かれています。READMEは同時に、こう断っています。

"Some of the unformalized results could have issues." (形式化されていない結果の一部には、問題がありうる。)

この722本の参考文献を、OpenAIとは無関係の第三者サイト「citedbyagi」が集計しています。対象は1万6,576件の人間の著者による文献で、望月新一氏の名前が出てくるのは2件だけでした。

2件ともNo.019の2本の原稿で、引いている論文も同じ、望月・辻村の共著論文です。宇宙際タイヒミュラー理論(IUT)の論文も、望月氏が1990年代に遠アーベル幾何学で挙げた代表的な論文も、722本のどこにも引かれていません。

ちなみに参考文献の件数で数えると、722本全体で最も多く引かれた人間の数学者は、京都大学大学院理学研究科の藤野修教授(極小モデル理論)で、120件にのぼります。ただしその多くは、互いに関連する少数の原稿グループに集中しています。

引いている原稿グループの数で数え直すと、最多はエルデシュ(41グループ)で、日本の研究者では森重文氏(14グループ)が最多でした。グロタンディークの名前は、表記の揺れを合わせて42件でした。

AIが書いた722本の土台には、京都の数学者の仕事も確かに入っています。その中で、望月氏の名前が出てくる唯一の家系がNo.019です。

1983年にグロタンディークがファルティングスに書いた手紙

話は43年前にさかのぼります。1983年、ドイツの若い数学者ゲルト・ファルティングスが、半世紀以上未解決だったモーデル予想を証明しました。これを受けて、当時すでに数学界の第一線を退いていたアレクサンドル・グロタンディークは、ファルティングスに長い手紙を書きます。

日付は1983年6月27日です。望月氏は後にIUTの第1論文で、この手紙をこう位置づけています。

"Anabelian geometry was apparently originally conceived by Grothendieck as a new approach to obtaining results in diophantine geometry such as the Mordell Conjecture." (遠アーベル幾何学はもともと、モーデル予想のようなディオファントス幾何学の結果を得るための新しい方法として、グロタンディークが構想したものらしい。)

手紙の中心にある着想は、ドイツ語の原文でこう書かれています。

"Eine allgemeine Grundidee ist, dass für gewisse, sog. „anabelsche", Schemata X (von endlichem Typ) über K, die Geometrie von X vollständig durch die (profinite) Fundamentalgruppe π1(X, ξ) bestimmt ist" (一般的な基本の発想はこうです。ある種の、いわゆる「遠アーベル的」な図形 X については、X の幾何は(副有限)基本群によって完全に決まる。)

翌1984年1月、グロタンディークはフランス国立科学研究センター(CNRS)への入所申請書として『Esquisse d'un programme(あるプログラムの概要)』を書き、この構想をさらに広げました。しかしそれは、彼自身の手では未完に終わりました。

1991年、グロタンディークは誰にも行き先を告げずに姿を消し、ピレネー山麓の村ラセールで隠遁生活に入ります。2014年11月13日、86歳で亡くなりました。

残された予想は、海を越えて日本で育てられることになります。

路地の記録から町を丸ごと復元できるか

「遠アーベル」という訳語は中村博昭氏の発案だと、数理研の星裕一郎氏が書き残しています。英語の anabelian は、基本群が「アーベル群(可換な群)からほど遠い」図形を指す言葉です。

ある町の地図を燃やしてしまい、手元には「どの路地を、どの順番で歩くと、どこへ戻ってくるか」という記録だけが残っているとします。この記録だけから、町をまるごと復元できるでしょうか。

「路地の記録」から町を復元する。下段は切断予想の「家と指紋」のたとえ

町が数学でいう代数曲線、路地のつながりの記録が「基本群」にあたります。この記録が単純すぎると、別々の町が同じ記録を持ちえます。

「右の路地から入って左へ抜ける」のと「左から入って右へ抜ける」のとで、たどり着く先が違う。そんな、順番を入れ替えると結果が変わる(非可換な)複雑な記録ほど、町の形を細かく覚えています。グロタンディークの直観は、十分に複雑な記録をもつ町なら、記録だけで町が丸ごと決まる、というものでした。

辻村昇太氏は数理研の入門講義ノートで、遠アーベル幾何学を「二種類の演算からなる体構造を一種類の演算からなる絶対Galois群の群構造によって捉えてしまおうという思想に基づいた学問」と説明しています。

足し算と掛け算という二つの演算で組み立てられた世界を、一つの演算しかない「対称性の記録」から読み取ろうとする。それが遠アーベル幾何学の野心です。

京都で解かれた「兄」

グロタンディークの予想には、いくつかの形があります。まず解かれたのは、「記録が同じなら町も同じ」という形の予想、いわば兄のほうでした。

その経緯を、当事者の三人が1998年の『数学』(日本数学会)で、こう書いています。

「この問題の研究は,著者の一人(中村)により80年代の末に発端が開かれ,もう一人(玉川)により90年代前半から(正標数の場合を含む)本質的な新展開がもたらされ,つづいて最後の一人(望月)により,新しい(p進的な)解釈を出発点とする最終的な解決が与えられた.」

その土壌には、伊原康隆氏の研究がありました。中村・玉川・望月の三氏は英語版の解説で、伊原氏が1980年代に「グロタンディークやドリーニュとは独立に」基本群へのガロア作用の研究を始め、その成功が「主に日本の」研究者を刺激したと書いています。

1996年、望月氏は玉川安騎男氏のアフィン曲線の結果を土台に、数体上の双曲的曲線一般についてグロタンディーク予想を導きました。1999年には、p進体の仲間(sub-p進体)の上で、同型だけでなく準同型(Hom)の形にまで強めた定理を証明しています。

三氏は1997年に日本数学会秋季賞を共同で受賞しました。玉川氏は後に、望月氏の受賞を祝う日本数学会の会報への寄稿でこう評しています。

「望月さんのこの結果は,現在に至るまで遠アーベル幾何の最高峰をなし,広く数論幾何学者全体に影響を与えていると思います.」

「p進」とはpで何回割れるかで測る近さ

望月氏の論文や講演には「p進」という言葉が繰り返し出てきます。三氏の解説が「新しい(p進的な)解釈」と書き、玉川氏が「p進ホッジ理論が中心的な役割を果たしました」と書いたのも、この「p進」です。

p進とは、数の「近さ」の測り方を変えた世界です。ふつう、1と2は近く、1と126は遠いと考えます。差の大きさで距離を測るからです。

p進の世界では、差が素数pで何回割り切れるかで近さを測ります。p=5なら、126−1=125=5×5×5で、5で3回割れるので、126は1のすぐそばです。一方、2−1=1は5で一度も割れないので、2は1から遠く離れています。

5進の世界では、1にいちばん近いのは126になる

奇妙に見えますが、この物差しで有理数の隙間を埋めた世界(p進数体)は、素数pの目だけで数を眺める「局所」の世界として、数論では欠かせない舞台です。有理数そのもの、あるいは数体という「大域」の世界の問題を、素数ごとの局所の世界に分けて攻める。数論ではよく使われる作戦です。

望月氏の遠アーベル幾何学は、この局所のp進の世界から大域の問題を照らす点に特色がありました。そして今回のNo.019も、まさにこのp進の局所の世界の話です。

解けずに残った「弟」──切断予想

ファルティングス宛ての同じ手紙で、グロタンディークはもう一つの予想を書いています。曲線上の点(有理点)は、それぞれ基本群の「切断」と呼ばれるものを一つ定めます。手紙の式(7)は、この「点→切断」の対応についての予想です。

"Es ist bekannt, dass (7) injektiv ist, und die Hauptvermutung sagt aus, dass sie bijektiv ist." ((7)が単射であることは知られており、主予想は、それが全単射だと主張する。)

町のたとえで言えば、家(有理点)は、それぞれ指紋(切断)を残します。異なる家が同じ指紋を残さないことは分かっています。予想は、逆に「どの指紋にも、必ず持ち主の家がある」と言っているわけです。

グロタンディークの遠アーベル予想の家系図。兄は京都で解かれ、弟は残った

この「弟」、切断予想は手強い問題でした。星氏は2011年の代数学シンポジウムの報告集で、こう書いています。

「現在までの研究によってΦPrimes X/kの単射性は知られているが,ΦPrimes X/kの全射性について知られていることはほとんど何もない,といっても過言ではないと思われる.」

持ち主のいない指紋が本当に存在しないのか。そこが、長く手の届かなかった部分です。

No.019が証明したと主張していること

No.019の本体「The p-adic section conjecture」は2026年9月24日付、著者欄は「OpenAI」だけです。主定理は、p進体の有限次拡大の上の、種数2以上の曲線について、有理点と切断の共役類が一対一に対応する、というものです。

つまり、p進の局所の世界の町では、どの指紋にも持ち主の家があり、2軒が同じ指紋を共有することもない、と主張しています。原稿は序論で、これが1983年のファルティングス宛の手紙の切断予想の「局所版の類似」だと明記しています。

局所版にも、先行する研究の積み重ねがあります。Koenigsmannは「双有理版」と呼ばれる弱い形を証明し、Pop–Stixはあらゆる切断を、p進の付値(近さの物差し)に結びつけました。Brescianiは「トーリック切断」という特別な切断について予想を証明しています。

No.019は、自分が埋める穴の位置をこう書いています。

"The passage from a fixed valuation to a rational point remains the geometric issue addressed here." (固定した付値から有理点へと移る段階が、この論文で扱う幾何的な問題として残っている。)

さらに原稿は、局所版を足がかりに有理数体上の話へも進みます。種数2以上のモジュラー曲線 X0(N) と X1(N) については、ℚ上のグロタンディークの切断予想そのものを証明したと、目録(CONTENTS)は書いています。

ただし、これは数体上の切断予想一般の解決ではなく、条件つきの判定法です。No.019が示したのは「有限被覆による降下集合が有理点と一致する」という条件を仮定すれば大域版が従う、ということで、原稿自身が次のように念を押しています。

"The general implication retains the finite-cover equality as a genuine arithmetic hypothesis; local point-theoreticity alone does not supply it." (一般的な含意においては、有限被覆の等式は本物の数論的仮定として残る。局所的な点理論性だけでは、それは得られない。)

X0(N) と X1(N) で結論まで届くのは、Stollという数学者が以前にこの条件を確かめていたからです。グロタンディークの元の問い、数体上の一般の曲線の切断予想は、いまも開いたままです。

幾何の中核に京都製の部品

No.019の原稿は、「幾何的な中身は定理1.2にある」と書いています。その定理1.2を支える第一段階で、京都の道具が名指しで登場します。

"The resolution of nonsingularities theorem of Mochizuki–Tsujimura supplies a finite étale cover whose stable model maps to a prescribed semistable model [17, Theorem A and Proposition 2.4(iv)]. This extends Tamagawa's result for closed points on a stable model [28, Theorem 0.2(v)] and Lepage's corresponding resolution theorem for Mumford curves [14, Theorem 2.7]. The general theorem of Mochizuki–Tsujimura allows us to move these collars into the stable-node construction." (望月–辻村の「非特異点解消」定理は、その安定モデルが指定された半安定モデルへ写るような有限エタール被覆を与える。これは、安定モデル上の閉点についての玉川の結果と、マンフォード曲線についての Lepage の対応する解消定理を拡張する。望月–辻村の一般的な定理のおかげで、これらの襟を安定節点の構成の中へ移すことができる。)

No.019の証明の部品表。幾何の中核の第1段に、望月・辻村の定理と玉川の定理が入っている

ここに出てくる望月・辻村の論文は、数理研のプレプリントRIMS-1974として2023年6月に公開され、No.019は2024年3月の改訂版を引いています。その要旨は、自らの成果をこう位置づけていました。

"This settles one of the major open questions in anabelian geometry." (これは遠アーベル幾何学の主要な未解決問題の一つを解決する。)

辻村氏は1992年京都生まれで、2020年に望月氏の指導のもとで京都大学の博士課程を修了し、同年から数理研の助教を務めています。もう一つの部品、玉川氏の論文は、数理研の紀要PRIMSに2004年に載ったものです。

No.019の相棒にあたる原稿「Étale covers with a prescribed exterior sheet」は、もっと率直です。望月–辻村の定理を紹介したうえで、「This is our geometric input(これが我々の幾何的な入力である)」と書いています。

京都の手は、No.019の外にも及んでいます。内田予想の証明を主張するNo.031は、最後の一手に星裕一郎氏の判定条件を使い、「Our proof uses the cyclotomic criterion at its endpoint(我々の証明は、最後の段階でこの円分の判定条件を使う)」と明記しています。

グロタンディークが描いた夢を、日本の、とりわけ京都の研究者たちが30年かけて道具に変え、AIがその道具箱を開けて使った。No.019の部品表は、そう読めます。

グロタンディークから京都の遠アーベル幾何学、そしてAIへ

望月新一はAIと形式化について何を書いてきたか

望月氏の名前は、2012年に公開したIUTの4本の論文とともに広く知られるようになりました。論文は2021年にPRIMSの特別号に掲載されましたが、2018年にはピーター・ショルツェとヤコブ・シュティックスが「証明は存在しないという結論に達した」とする文書を公表し、望月氏はこれに反論しています。この論争は、いまも続いています。

その望月氏は、AIについても書いています。2025年1月4日のブログでは、計算機やAIとの役割分担について、こう述べています。

「人間が「主」で、計算機や人工知能が「従」=「補助」、あるいは別の言い方をすれば「知的な肉体労働」という形で、役割分担が明確に示されている場合は、特に問題ないわけですが、問題は、「主従関係」が逆転し、人間が内容を事実上余り理解あるいは認識していない形で、機械が実質的に論文を作成してしまう場合ということになります。」

2025年10月のIUTに関する英文報告書では、数学的な説明責任の仕組みを欠いたまま書かれた記事やプレプリントを、ChatGPTのようなLLMの「幻覚」になぞらえています。同じ節で望月氏は、LLMをLeanという証明検証の言語につなぎ、Leanの厳密な検証で文章生成を支える研究が進んでいることにも触れました。

"it appears that currently research is underway to link LLM's such as ChatGPT to Lean, so that interaction and text generation by the LLM can be supported by rigorous mathematical verification via Lean." (現在、ChatGPTのようなLLMをLeanにつなぎ、LLMとの対話や文章生成をLeanによる厳密な数学的検証で支える研究が進んでいるようだ。)

そして2026年1月1日のブログでは、IUTのLeanによる形式化に「本腰を入れて取り組むことになりました」と書いています。同日の別の記事では、Leanのコードを、議論の内容を理解する数学者がいなくなった「数百年後でも」論理構造の記録を保存できる技術だと位置づけました。

AIに対して警戒を示しながら、機械による検証には期待を寄せる。望月氏の文章は、その両方を含んでいます。

主張と検証のあいだ

No.019の2本の原稿とNo.031は、どれもLeanによる形式証明が付いていない、READMEの言う「形式化されていない結果」です。関連するNo.009(Bogomolov–Pop再構成)には形式化がありますが、範囲は「単射性」の部分だけで、存在性は外にあると明記されています。

主張と検証のあいだ。2026年10月7日時点

10月7日の時点で、遠アーベル幾何学の専門家がNo.019やNo.031について公開の場で示した評価は、確認できた範囲でゼロでした。国内の報道も、準リーマン予想など別の成果に焦点を当てています。

OpenAIが公開に向けて相談してきた、プリンストン高等研究所の「数学と人工知能に関する諮問グループ(AGMAI)」は、公開当日の声明でこう書きました。

"This release is the beginning, not the completion, of the process of human understanding and the incorporation of the work into mathematical knowledge." (今回の公開は、人間が理解し、この仕事を数学の知識に組み込んでいく過程の始まりであって、完了ではない。)

No.019が正しいかどうかを決めるのは、原稿の中で部品として使われた定理を書いた人たち、つまり京都の研究者たちを含む、遠アーベル幾何学の専門家の目です。

「解くこと」は目的ではない

公開の約4週間前の9月11日、フィールズ賞受賞者たちが「A Severe Misalignment of AI in Mathematics(数学におけるAIの深刻な目標の乖離)」という宣言を公表しました。署名欄には、森重文、ドリーニュ、ドリンフェルト、ショルツェ、テレンス・タオら28名の名前が並んでいます。

宣言はまず、「数学研究は、形や数、自然現象の基本的な構造を理解することに取り組みます」と書きます。そのうえで、公式の日本語版はこう続けます。

「しかし、問題を解くことは、概念的な理解と洞察という第一の目標を達成するための道具であり、間接的な指標にすぎません。」

宣言は、AIを全否定するのではなく、題名のとおり「目標の乖離」を問題にしています。「AIには、数学の真の探究と理解を充実させ、加速させる可能性があります」と認めたうえで、AIが生んだアイデアを発展させ、数学の知識体系に組み入れる数学者がいなければ、「人から人への不可欠な伝達の連鎖」が失われると警告しています。

この考え方には、古典的な表現があります。幾何学者ウィリアム・サーストンは1994年、米国数学会の会報に寄せたエッセイ「On proof and progress in mathematics」で、数学者の仕事を「人間の数学の理解をどう前進させるか」という問いに置き直しました。

"what they really want is usually not some collection of "answers"—what they want is understanding." (本当に欲しいのは、たいてい「答え」の寄せ集めではありません。欲しいのは、理解なのです。)

この視点でNo.019を見直すと、部品表の意味が変わります。グロタンディークの夢は、京都を中心とする研究者たちの手で、数十年かけて使える道具になりました。AIはその道具を拾い上げ、局所版の切断予想という、40年来の穴を埋めたと主張しています。

しかし、それで理解が深まるかどうかは、これから決まります。No.019の論証が京都で読まれ、確かめられ、言い換えられ、次の問いを生んだとき、初めてこの一本は数学の一部になります。

数学の外にも、同じ構図があります。

  • 部品の出どころを書く:No.019は、望月–辻村、玉川、Lepage、Pop–Stixと、使った道具の出どころを名指ししています。成果物に誰の道具が入っているかを明記することは、検証の入口であり、道具を作った人への敬意でもあります。
  • 答えと理解は別物:AIが書いた報告書が正しくても、組織の誰も中身を説明できなければ、それは望月氏の言う「主従関係」の逆転です。
  • 最後に読むのは人間:検証の仕組み(Lean)と専門家の目は、どちらも代わりのきかない存在です。

京都の研究者たちがNo.019をどう読むのか。グロタンディークの手紙から43年、その答えが出るのは、これからです。

参考文献